深部硬結点直刺による即効鎮痛針


                                 北林達也

 保険医療体制の問題でもあろうが、筋肉や関節の痛みで病院に行くと、医師は判で押
したようにレントゲンを撮り「異状ありませんね。痛いのなら湿布と痛み止めを出して
おきましょう。リハビリにも通ってください。」という。お決まりのコースである。こ
のときの医師の言葉は「骨には異状がない」という意味であり、患者が訴えたのは、筋
肉や靭帯の疲労から生じた痛みであるから、全くのすれ違いである。レントゲン技師は
最初から骨を写す量の放射線を当てているのであるから筋肉や靭帯などの軟部組織が見
えるはずがない。

 痛み止めは一時しのぎにしかならず胃腸に悪い。夏でも冬でも冷湿布を出すのは馬鹿
の一つ覚えとしか言い様がない。リハビリが効いたという話は聞いたことがない。これ
が疲労痛に対する病院医療の実態である。要するに肩凝り・腰痛・首の凝り・それらに
付随するさまざまな痛みと不定愁訴は、病院では治せないのである。

 看板も出していない私の治療院に来るのは、20年・30年と肩凝りや腰痛に悩まさ
れてきた人たちである。あるとき、30代の主婦が、じっと座っているのも辛いという
腰痛で治療に来た。触診してみると実にひどい状態である。骨に異状がないことは背筋
を2、3度なでればわかる。レントゲンなど必要ない。もうかれこれ16,7年も前か
らの痛みであるというので、どうしてこうなるまで放っておいたのですかと言ってしま
った。すると「いえ、病院にも行きましたし、マッサージにも、針にも、カイロにも、
整体にも行きました。でも結局こうなってしまったのです」という。どうやら社会全か
ら「手の技術」が失われてしまっているらしい。

 私は毎日のように長期にわたって体の痛みに苦しめられてきた人たちの治療をしてい
る。そうして驚くほどの短期間にそれらの人たちは痛みから解放されている。むろん、
治療が長引くこともあるし、針の痛みがかなり強い場合もあるが、長年の痛みとその後
の快適な生活に比べれば、それは支払うべき代償としてはむしろ小さなものである。

 私の治療は徹底した圧痛点治療であって、いわゆるツボは使わない。痛いところに直
接針を刺すのである。20年以上も痛みを抱えていると、その硬結点は骨の近く、つま
り皮下5センチから、時には7センチくらいの所にあることもある。私はこれを深部硬
結点と呼んでいるが、それはほとんど骨状に硬化した筋組織である。痛みの原因はこれ
である。

 この硬結点に刺針する。技術を要するのは、的確に針先をそこに当てることと、針を
曲げないということである。針先がそこに当たると、骨面と区別がつかないようなガチ
ガチという音がする。それを針先でつつくようにすると、ある時点でスルリと針が入る。
その瞬間、その部位の痛みは消え、それが悪影響を与えていた組織全体が一気に弛緩し、
皮膚がしっとりと潤ってくる。かなり頑固な凝りの場合は、こちらも負けじとほぐしに
かかる。針の痛みも必然的に強くなるが、治療の痛みはせいぜい2日か3日で消える。

 生活に支障を及ぼしている痛みが消えるまで、この治療を繰り返すのだが、治療が長
引くことはあまりない。現在の地方の経済力では、治療院に長くかかる経済的余裕のな
い人が多いので、とにかく早く治すことを心がけている。できれば1回で治す。1回で
治せなければ2回で治す。2回が無理なら3回、3回が無理なら4回となるが、このこ
ろには患者の心に「治る」という希望が芽生えていないと、次は来なくなると思った方
がよい。庶民の経済はそれほどに逼迫している。

 しかし、先ほどの病院医療その他の治療の杜撰さを見ると、痛みを取ることが的確に
できれば、針治療の需要は計り知れないほど大きいといえる。そこに大きな可能性が開
かれている。疲労に由来する痛みには、薬も神経ブロック注射も要らない。針があれば
十分である。十年来の緊張型頭痛でも、上部頸椎の深部硬結点刺針で即効的に消失する
ことが多い。緊張型頭痛の患者だけでも数百万人いるといわれているから、深部硬結点
の治療はきわめて大きな社会的需要を持っていると言える。