線維筋痛症の針および指圧治療


 最近ようやく病院の外来でも「コリ」をまともな疾患として把握しようという動
きが出てきたようである。国際的には、1989年に初めて慢性化した筋痛に関わるシ
ンポジウムがアメリカで開かれ、第2回が1992年の夏にデンマークで開かれている。
もっとも「コリ」に該当する適当な名称を持たない欧米では、これを「繊維筋痛症
候群」(fibromyalgia syndrome, 略してFMS)と名づけている。         .

 その主たる症状は疼痛であり、これに付随して疲労感・倦怠感・頭痛・めまい・
不眠などの症状が現れる。その診断基準は、指の触診で18ケ所の圧痛点のうち11ケ
所に疼痛を認めることとあるとされているが、その圧痛点は、我々が日々の治療で
容易に見つけるところのものと同じ部位にある。              

 その治療法は、いまのところ、理学療法を初めとして鎮痛剤や筋弛緩剤、あるい
は軽い向精神薬・抗鬱薬の投与によっているのが実情である。しかし、鍼灸・指圧・
按摩・マッサージの立場からすれば、これらは針・指圧・按摩・マッサージの最適
応症であり、日常的に当たり前のように治療している疾患である。この疾患の潜在
患者数は、アメリカでは700万人から3,100万人と言われている。人口比による推計
は単純に過ぎるが、これからすれば日本でも300~1500万人程度の人が同様の症状
に悩まされていると思われる。                      

 またむち打ち症を経験した人の相当数がこの疾患を発症しているとされる。これ
も、我々が日常的に経験することと一致しているが、むち打ち症だけでなく、競技
性の高い過度な運動、階段の踏み外しや転倒など、あらゆるトラブルがこの疾患の
原因となりうる。                            

 この疾患を10数年にわたって専門的に治療してきた者からすれば、これは筋の
疲労と硬化(ときにそれは骨状に硬化する)に由来するもので、針およびマッサー
ジの最適応症であり、自己免疫性疾患などの特段の病変に罹患していない限り、比
較的容易に治癒せしめうるものである。                  

 しかし、筋の疲労と硬化は、画像診断、血液検査などによって確認できないため、
整形外科などを受診しても「異常なし」とされるのが常であり、多くの患者は、治
療そのものをあきらめている場合が多い。                 

 線維筋痛症による疼痛およびこれに由来する不定愁訴は、当該筋に的確に針を刺
すこと、または、当該筋に的確な押圧を加えることがが出来れば、ほとんど即効的
に治癒することを、一治療家として経験的に確認している。当該筋が深部にあるほ
ど、触診によるその探り出しと的確な刺針・運針・押圧が困難になるが、それは熟
練することによって解決するしかない。ただ、習熟すれば、病院医療から見放され
た多くの人々を救いうるし、ひいては、針灸・按摩・マッサージ師の生活の安定と
社会的地位向上に寄与することになる。                  


                    大分市森町 北林達也