重力負荷リリース法による指圧およびマッサージの基礎技術


                            玄珠堂  北 林 達 也


以下は、私が考案した「重力負荷リリース法による仰臥位での全身の指圧とマッサージ法」のうち
免許取得後の若い治療家が、日々の経験の中から自然に習得することが困難と思われるものについ
て、そのいくつかを紹介するものである。私の治療は、針であるか指圧・マッサージであるかを問
わず、ただただ、人体を重力負荷による筋疲労から解放することを目的としている。それは多くの
場合、現代医学、古典医学で治癒困難であった人たちを快適な生活に導いている。       

地球上で生活をする限り、人間は地球の重力と拮抗しながら活動している。しかし、人体に加わる
重力負荷がもたらす筋疲労・姿勢や関節の変形などについては、まだ医学的な考察が十分になされ
ているとは思われない。ことに関節および関節胞にかかるモーメントの解析はほとんどなされてい
ないと思われるが、施術上は、筋および腱に加わるモーメントが最大になる点が圧痛点となり、そ
れが治療点となる。それゆえ、的確な触診と施術を行うことが出来れば治療上は問題ない。   

人体は、ただ座っているだけで、重力とたたかわねばならない。「何もしていないのになぜ肩が凝
るのでしょう?」という質問は、鍼灸・指圧・マッサージ業務にたずさわるものならば、日常的に
耳にする言葉であるが、何もしていないということはありえない。人体は、重力とたたかっている
のであり、それは、人体の末梢部分においては、筋肉と腱と関節の仕事なのである。      



項 目

1.環椎後頭関節の指圧とマッサージの一例

2.頸椎に沿った指圧とマッサージの一例

3.肩上部の指圧とマッサージの一例

4.肩胛骨内縁および肩胛下部の指圧とマッサージの一例

5.背部の指圧とマッサージの一例

6.腰部の指圧とマッサージの一例

7.臀部の指圧とマッサージの一例

8.膝の指圧とマッサージの一例


盆の窪の揉み方
下からの首の揉み方

首は、下から両方の中指で指圧する。このときいわゆる「盆の窪」に利き手の中指一本をくさび
のように差し込むのがコツである。そのうえで、頭骨を上に引くようにする。これは環椎後頭関
節にかかる重力負荷(頭の重み)をリリースすることが目的である。この手技は、指の力が強く
ないとできない。それは日々の鍛錬によって獲得するしかない。私は硬式テニスのボールを爪を
立てて握る訓練を1年行った。高校の女子生徒にコントラバスを弾いている人がいる。女の子の
華奢な指でも訓練次第でいくらでも強くなるものである。指立て伏せができるバレーボールの選
手くらいの指の力は、私などよりはるかに強い。                     

この状態では、指の形が分からないので、モデルの男性に上体を起こしたもらった。母指球の上
に頭を乗せ、中指で凝りを取りつつ、上に引くようにするのである。頭は、ゆらゆらするくらい
がちょうど良い。そういう浮遊感は、実に気持ちの良いものである。          



手の形を私の目線から写してみると、次のようになる。



薬指で中指をサポートするようにすれば、指が疲れるということはない。人差し指は軽く添える
だけだが、必要に応じて使うこともある。私は片手に頭を乗せてゆらゆら揺らすことができる。
左右の手を入れ替えれば、いつまででも続けられる。たいていの人は1~2分で眠ってしまう。

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頸椎に沿った首の揉み方


上の手技を、頸椎の上から下まで、ひと押しずつ指をずらしながら行うと、頸椎後部全体の指圧
ができるのは言うまでもない。このとき母指球に頭を乗せ、決して中指の上に頭の重みがかかり
すぎないように注意する必要がある。そうしないと、時に強い痛みを感じ、反射的に自分で頭を
持ち上げることがある。このときに首を痛めてしまう可能性がある。首は優しく扱うのが鉄則で
ある。                                        


母指を使った側頸部の指圧とマッサージ


側頸部は、頭部が上を向いたままの時は中指での治療ができない。これは母指で行うのである。
首を左右に傾けて良い場合は中指を使った技術が応用できる。このときの手の形は下の写真を見
ると分かる。                                     


母指で首を揉む場合の手の形


モデルの男性に上体を起こしてもらった。右の掌の上に首全体を、左の掌で頭の重みを支えるよ
うにする。首の重みが、頸椎にかからないように、いわばフローティングの状態にして治療
するのがコツである。たいていの人が眠ってしまうくらい気持ちがよい。


私の目線から見た手の形


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肩上部の指圧とマッサージ


私の通常の手順では、上の手技が終わってから肩に移る。それは手をそのまま下に下げれば良い
からである。スッと下に下げるとたいてい母指が凝りに触れる。それを「気持ちが良い」あるい
は「痛いけど気持ちが良い」という程度に指圧すると、肩と首に由来する不快感を取り除くのに
著しい効果がある。頭痛や歯が浮いた感じが取れることも多い。              

このまま母指を右にずらせば肩上部の指圧ができる。このとき、肩胛骨烏口(うこう)突起に付
着した凝りを指圧すると非常に効果的である。しかし、この部分の凝りは非常に頑固であるのが
普通であり、指の力で無理に押すと返って皮下組織を傷つけ、翌日腫れと痛みを生じることにな
る場合が多い。私は、どうしても嫌いだという人以外は、針を使う。通常は1寸の3番針を使う
が、体格と凝り具合に応じて1寸3分の4番または5番針を使うこともある。5番針を使う人の
多くは、過酷な肉体労働に従事している人であることが多いが、最近は、長時間のパソコン入力
などに従事している人にも、そういう人が増えている。                  

肩胛骨内縁と脊柱のあいだの指圧


手を引き抜かずに中指・薬指で下から指圧をすると、いわゆる膀胱経一側線の指圧が出来る。こ
こは心肺機能にとって非常に重要な部分であり、風邪を引き始めにゾクッと寒気を感じる部分で
ある。皮下脂肪が比較的薄いことと、冬は冷気が気管の後ろ側を舐めるように通過するため、体
温が居所的に下がってしまうという熱的な弱点がある。その上で、姿勢維持のために胸最長筋・
僧坊筋中部繊維・大小菱形筋・上後鋸筋・脊柱起立筋(棘筋、最長筋、腸肋筋)などが幾重にも
重なり合っていて、持続的な緊張を余儀なくされている。                 

体温低下と持続的緊張のふたつの要因は、毛細血管と毛細リンパ管の縮小をもたらし、これによ
って筋の酸素補給・栄養補給・老廃物の代謝が不十分となる。主としてこれがこの部位に甚だ不
快な凝りを引き起こすことになる。したがって指圧・マッサージによる疲労回復においても極め
て重要な部位となる。日本人の場合、一般に胸郭が扁平であるため、姿勢が前屈しやすい傾向が
ある。そのためここは、日本人にとって特異的に重要な施術部位となる。          

いわゆる膀胱経一側線は、横寝でもうつ伏せでも治療することが出来るので、この手技が特別に
重要な意味を持つことはないが、治療を受ける人にとっては、この方法がもっとも安楽である。


手を替えての肩上部の指圧とマッサージ


このように手を替えることも多い。これはだいたいは肩胛骨内縁および肩胛下部の治療に移行す
る前段階で行うことが多い。この状態で肩の上・前などを指圧したのち三角筋や烏口(うこう)
腕筋・上腕・前腕部などの手当をし、肩胛骨上面と周縁、肋骨のあいだ、つまり肩胛肋間関節の
治療に移る。肩胛骨と肋骨のあいだは、通常の姿勢では肩胛骨に隠れるので、治療してもらえな
い。ここは膀胱経第二側線が肩胛骨に隠れる部分であるが、ここの治療ができない人があまりに
多いのに驚かされる。                                 


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肩胛骨内縁および肩胛下部(肩胛肋間関節)の指圧とマッサージ


肩上部・肩関節周辺および棘上筋・棘下筋などの処置を終えたら、肩胛骨内縁の治療に移る。こ
の部位の治療のコツは、肩胛骨内縁に張りついたようになっている凝りを示指・中指・薬指の3
本の指でほぐしながら、肩胛骨内縁を探り、3本の指先に引っかけて引き出すことである。この
とき患者の腕(写真では右腕)を胸の上に上げてもらうと簡単にできる。こうすることによって
通常治療されない肩胛骨と肋骨のあいだ、特に肋骨に付着する筋群のしこりを指圧できるように
なる。                                        

肩胛骨の裏の、肋骨に張りついたような凝りを指圧されると、たいていの人は「気持ちが良い」
とか「痛いけど気持ちがよい」、「そこを治療してもらうのは初めて」などと言う。やってみる
と実に簡単な手技であり、効果は極めて大きいのですぐに体得できると思う。指の力の弱い人は
最初は少し苦労するかも知れないが、1年もすれば難なく出来るようになるものである。   

-ちょっと夏ばて気味なのでひと休み-
-夏ばてと思っていたら夏風邪でした。-













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