この画像を持って来た人は、足のしびれと、ふくらはぎの張り感を訴えていた。整
形外科の医師は、このMRI画像を見て、ヘルニアが原因だが、たいしたことはない
ので手術の必要はないと言ったという。結局、リハビリと痛みが出たときのための痛
み止めが出された。

 ところが、針を刺してみると、ヘルニアを起こしている腰椎の周辺が明らかに硬く
凝っているのである。それで、2寸8番(長さ6.0センチ、太さ0.3ミリ)の針を使っ
て、椎体周辺をやわらげた。

 1時間ほど治療したら、症状は消えていた。

 この現象の解釈は三通り成り立つように思われる。

 1. この人の症状は、ヘルニアではなく、腰椎周辺の凝りが座骨神経を圧迫して
   いたことが原因である。その圧迫がやわらいだことによって症状が消えた。

 2. 腰椎周辺の筋肉が柔らかくなったことによって、椎体の間隔が広がり、ヘル
   ニアがいくらか椎間板に戻った。

 3. 1と2の両方がともに起きたことによる症状の改善である。

 おそらくは、3であろう。1と2のいずれかというよりも、1と2がともに起きたと
考える方が現実的である。

 いずれにせよ、症状は針で消えたのである。私は、ただ、ひたすら、針先にガチガチと
当たる凝りを丹念にほぐしていっただけである。

 画像からも分かるように、用心が必要な状態であることに変わりはない。仕事が多忙な
ことからして、たぶん、しばらくしたら、同じ状態に戻るだろう。そのときは、また治療
するしかない。

 厚生労働省が針治療に高い保険点数を設定したら、日本の医療費はいくらか下がり、
国民総生産は、いくらか上がるだろうと思う。

 以前、腰痛で1ヶ月会社を休んでいるという人の治療をしたことがある。3回で全快
した。もし、会社を休む前に治療に来てくれていたら、この人も、この人が勤めている
会社も、無用な損失を受けずに済んだだろうと思う。

 私が使ったのは、長さ6.0センチ、太さ0.3ミリの中国針(2寸、8番相当)である。
それを座骨神経の近くまで刺している。こういう治療法を神経根治療というが、近年
注目されているトリガーポイントブロック療法の見解からすると、拘縮した筋肉が
座骨神経を圧迫することが痛みの原因かどうかは、分からない。

 たんに、拘縮した筋肉が、痛みのトリガー(引き金)になっていただけかもしれない。
これは画像診断などを用いて、治療の前後の状態を確認できるから、客観的に調べること
が出来るはずである。

 この治療法のおもしろいところは、注射針でも出来ると言うところにある。極めて
微量の筋弛緩剤・消炎剤などを注射すれば、症状は驚くほどに改善すると予想される。

 最近、欧米で言われ始めたドライ・ニードルは、薬液を入れない注射である。なぜ、
鍼で、あるいは注射針だけで痛みが消えるかというと、それは興奮している神経終末を
微細に切断することで、物理的に痛み信号をブロックしているからだろうと推測している。

 日本では、加茂整形外科医院ほか、複数のクリニックが、トリガーポイントブロック
注射
という方法で、積極的にこの問題に取り組んでいる。

 このような症状に対する、低コストで効果的な治療方法が普及すれば、日本の医療費は
大幅に削減されるだろう。それこそ、根本的な事業仕分けになるだろう。

 つまり、これまでの痛み治療の多くは、患者にも、国家財政にも大きな負担を強いる
高額で無駄な医療行為だった可能性が、医療分野そのものから指摘されているのである。



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